本記事は、山崎詩郎先生に取材・インタビューさせていただいた内容を、インタビュー形式(原文)でまとめたものです。
前回公開した『独楽(コマ)の科学』書評記事の流れを受けて、今回は先生ご自身の原体験、独楽に惹かれ続ける理由、そしてベイブレードに託している未来を、先生の言葉そのままでお届けします。
あわせて別記事では、今回の取材回答をもとに、「山崎先生の原体験/独楽へのまなざし/ベイブレードに託す科学の未来」を、初心者にも追いやすい言葉で整理した解説記事を掲載予定です。
どちらから読んでも構いませんが、先に解説記事で全体像を整理してから本記事(原文)に入ると、回答の背景や言葉の温度まで、より深く受け取りやすくなるはずです。
なお、クラウドファンディングの進行状況や、ベイブレードを取り巻く環境は変化します。
本記事は回答時点の内容としてご覧ください。
- Q1|「研究のプロセスそのものが面白い」――科学者を志した3つの転機
- Q2|なぜ“独楽”なのか――遊びと科学がギュッと凝縮された題材
- Q3|「これはもう、次はベイブレードだ」――運命的な出会いの瞬間
- Q4|なぜ子どもに届けたいのか――「わかりやすく」と「正確に」の両立
- Q5|一番好きなのは「回せないコマ」でした
- Q6|好きなベイブレードはクロックミラージュ、好きなタイプはスタミナ
- Q7|クラウドファンディングで見えた手ごたえ――「ベイブレードと科学に国境はない」
- Q8|「勝利より 大事なものを 見せてやる」に込めた思い
- 編集後記:山崎先生へ感謝/解説記事はこちら
- 【応援したい方へ】山崎先生の挑戦もぜひご覧ください
Q1|「研究のプロセスそのものが面白い」――科学者を志した3つの転機

先生が「科学って面白い」と感じた原体験は何でしょうか。
クラウドファンディングページでは「科学コミュニケーション活動」との出会いが進路に大きな影響を与えたと拝見しました。さらにその原点までさかのぼって、幼少期や学生時代に心が動いた出来事を伺いました。
A1
理科好きになる転機が3回ありました。
まず、小学校3年生の時に、カール・セーガンの「コスモス」というテレビ番組を見たのが最初のきっかけです。カール・セーガンはNASAの有名な天文学者なのですが、研究を進めるだけではなく、テレビ番組を通して科学をとても分かりやすく魅力的に伝える活動をしていて、その道では世界で一番有名でした。
そのころから、漠然と将来は科学の研究をするだけではなく伝える活動もできる人になりたいと思うようになりました。
当時はとてつもなく重くて大きさがゼロのブラックホールのようなとても極端な存在に興味を持っていました。
ちなみにブラックホールは回転しており、宇宙最強のコマといえます。それから、小学6年生の時に、自分の担任の先生がとてもよい理科の授業を行ってくれました。
その授業では答えを暗記するようなことはせずに、自分で仮説を立てて、それを確かめる実験を考えて、結果を自分で考察するという、まるで本物の研究のような授業が行われていました。例えば「円周率を求める教科書にない新しい方法を考えましょう」といった探究型の授業です。私は、教科書の答えを覚えるのは本当に嫌いで、どうしてそうなるのか自分で考える考察が大好きでした。
そのころから、自分は理科がとてつもなく大好きで得意かもしれないと感じ始めました。それから、高校3年生の時に国内最高の研究機関である理化学研究所で1泊2日のサイエンスキャンプというものに参加しました。
そこで私は初めて本物の科学者とお話しすることができました。そこである実験をしたのですが、その結果がどうしてそうなるかを一晩考えました。
翌日に科学者に答えを聞くと、科学者も答えはわからないということでした。
科学者は自分たちでもわからないことを高校生にやらせていたのです。研究とは教科書にも答えがないことを自分で考えて作ることなんだ。それって自分が一番好きなことだ。
そんな風に思い、その日から、なんとなく理科が大好きな少年が、科学者を目指すために勉強を頑張る人になりました。私の場合、特定の対象に興味を持ったというよりも、理科や科学や研究のプロセスそのものが面白いと感じたんです。
Q2|なぜ“独楽”なのか――遊びと科学がギュッと凝縮された題材

先生は、なぜここまで“独楽”に惹かれ続けているのでしょうか。
物理学の題材は数多くある中で、『独楽の科学』を書き、さらにその先に『ベイブレードの科学』まで見据えておられる理由を伺いました。
A2
私は、子ども向けの科学実験ショーをこれまでに500回ぐらい実施してきました。
そのテーマは光や電気、水や空気などです。その中でも特に人気のある科学実験ショーのテーマが、実はコマだったんです。コマの良いところは、まず何もしなければ机の上に転がったままです。
それを回すと、クルクルと回り出します。
そして、時間が経つと倒れ、だからまた回したくなります。特に子どもはこの繰り返しが本当に楽しいようで、1時間以上同じコマを回している子も見たことがあります。このように、コマには回しては倒れ、倒れてはまた回したくなるという、とても良い循環があります。
ベイブレードをやっている人ならみんな経験がありますよね。そして、コマはただのおもちゃではなく、「なぜ倒れないんだろう?」「どんなコマが長く回るんだろう?」といった科学の要素があります。
私は科学をわかりやすく魅力的に伝えるにはどうすればよいかを常々考えていました。
そこで、コマを使えば遊びながら科学を学べるのではという発想に至ったんです。コマには遊びと科学の要素がギュッと凝縮されている、それがコマにひかれている理由です。
※本記事内の書籍リンクはアフィリエイトではありません。
Q3|「これはもう、次はベイブレードだ」――運命的な出会いの瞬間

クラウドファンディングページで「2024年、ベイブレードと運命的な出会いを果たします」と書かれていましたが、先生はどこに“運命”を感じたのでしょうか。
一般的な独楽と比べたときの、ベイブレードならではの新しさや可能性を伺いました。
A3
2014年に全日本製造業コマ大戦というもので優勝して以来、コマ博士と自称してコマのことなら何でも知っているかのように振る舞ってきました。
ところが、実はそれから10年間、世界一有名なコマのベイブレードのことは少し聞いたことがある程度で、実際にやったことは1回もなかったんです!それは、自分はコマ大戦や科学コマに取り組んでいるので、ベイブレードをライバルのように感じていたからかもしれません(笑)。
2024年に伝統のベーゴマと、私が取り組んでいたコマ大戦、そしてベイブレードが合同でコマの魅力展を開催しました。
その総合監修をたまたま私が担当したことがきっかけでベイブレードをちゃんと知ることになりました。ベイブレードに夢中になる子どもたちを初めて目の当たりにしました。
そこで私は感じたんです。
今までも、コマで遊びながら科学を学ぶということを地道に広めてきました。でも、そのコマを世界的に有名なベイブレードに置き換えたら、コマで遊びながら科学を学ぶ人が1万倍にも広がるかもしれない…
そして、コマ大戦とベイブレードには共通点がいっぱいあることに気が付きました。これはもう、次はベイブレードだと心の中で決まりました。
それから1年間で、ベイブレードに完全にハマってしまったんです。

※画像引用元:academistクラウドファンディングページ掲載画像(使用許可をいただいたうえで掲載しています)
Q4|なぜ子どもに届けたいのか――「わかりやすく」と「正確に」の両立

先生の発信や文章からは、“子どもたちに科学の楽しさを届けたい”という強い思いを感じます。
なぜそこまで子どもに伝えることを大切にされているのか、また「わかりやすく伝えること」と「正確に伝えること」のバランスをどう考えているのかを伺いました。
A4
私が科学を最初に好きになったきっかけは、やはり小学校3年生の子どものころだったんです。
子どもの頃が一番感性が強く、いろいろ吸収します。
なので、できるだけ小さい子どものうちに、楽しい科学実験や授業を経験させてあげて、科学を好きになってほしいと感じています。また、小学生に人気がある科目は体育の次が理科なのですが、中学生ぐらいになると理科の人気がどんどん下がり、特に高校の物理なんて多くの人が最も嫌いな科目といいます。
だからこそ遊びを取り入れて、できるだけ嫌いになってほしくないと感じています。わかりやすく伝えることと、正確に伝えることは、ときとして相反します。
ですが、意外と多いのは、科学を全く理解していない人が間違っているのにわかりにくい説明をしているシーンです。科学の本質を理解すれば、ほぼ正確かつとても分かりやすい説明を生み出すこともできます。
私の仕事は、その両方をできる限り保ちながら最高の説明を発見することです。
Q5|一番好きなのは「回せないコマ」でした

これまで先生が出会ってきた独楽の中で、「1つだけ選ぶならこれ」と思う独楽はありますか。
性能でも、美しさでも、思い出でも構わないので、“特別な1個”を伺いました。
A5
全日本製造業コマ大戦の世界大会に出場するときに、優勝を狙ってあるコマをチームと一緒に作成しました。そのコマは先端はニードルビットのようにとがっていて、ラチェットに対応する部分の厚さが2cmもあり重心はとても高く、球状の本体を持っている、とても変わったコマでした。
完成したコマを回してみると…なんと、回しても即座に倒れる、絶対に回せないコマだったのです…!それが私の一番思い出に残っている好きなコマです。実は私は長く回るコマや強いコマよりも、回せないコマが好きなんです。
回せないコマがあるからこそ、コマが回る理由が強調されてよくわかるんです。
明日の試合では勝てませんが、学びに繋がり人生が豊かになります。
自宅には絶対に回せないコマを10個ぐらいコレクションしています。実は、ベイブレードでも回せないカスタマイズを発見して喜んでいます。
ぜひ皆さんも、強さだけではなく、あえて回せないベイブレードのカスタマイズを探してみてください。
Q6|好きなベイブレードはクロックミラージュ、好きなタイプはスタミナ

先生ご自身が好きなベイブレード、また、好きなタイプ(アタック・ディフェンス・スタミナ・バランス)を1つ挙げるとすればどれでしょうか。
先生が独楽に感じる“強さ”や“美しさ”の感覚との共通点もあわせて伺いました。
A6
私の好きなベイブレードはクロックミラージュです。
クロックミラージュはほぼ円形の外側に重心のあるベイで、ある時期はとても強いベイに仲間入りしていましたが、私が好きな理由は強いからではありません。それは、シンプルで簡潔で理解しやすいからです。
科学や物理ではできるだけ状況を簡潔に考えることで理解を進めていきます。
クロックミラージュはそのような研究には最適のベイです。私の好きなタイプは、とても悩みますが、スタミナタイプです。
これもまた強いからではありません。
ボールやオーブやフリーボールやディスクボールのように先端の丸いビットは、摩擦によるジャイロ効果で立ち上がる効果があるんです。
これはブレーダーにいわゆる姿勢保持能力と呼ばれているものです。
スタミナタイプのベイはそのような科学を感じることができるので好きです。皆さんもぜひ、強さやカッコよさだけではなく、学びのあるベイを好きになってほしいですね。
Q7|クラウドファンディングで見えた手ごたえ――「ベイブレードと科学に国境はない」

クラウドファンディングが大きな反響を集めている今、率直にどんなお気持ちでしょうか。
その反響を受けて感じている嬉しさ、責任、驚き、そして手ごたえを伺いました。
A7
ベイブレードのクラウドファンディングは開始からわずか2.4日で目標の100%を達成しました。
この記事が出るころにはきっと200%を達成しているかもしれません。
SNSでの宣伝やご支援にご協力いただいた皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。クラウドファンディングの反響で感じたのは、やはりベイブレードを科学で理解したいという需要はある、という強い手ごたえでした。
最初は誰も支援してくれなかったらどうしよう、ベイブレードは遊びなんだから科学なんか関係ない、という声もあるかもしれないと不安でした。ところが、実際には多くの親子から、ベイブレードで遊びながら科学を学ぶことにとても共感した、という応援のコメントを頂きました。
私の想いが通じたようでとてもうれしかったです。また、海外のブレーダーの間で大反響があったのもうれしかったです。
ベイブレードと科学に国境はないことを実感しました。
Q8|「勝利より 大事なものを 見せてやる」に込めた思い

『ベイブレードの科学』で掲げられている「勝利より 大事なものを 見せてやる」という言葉に、今の時点で込めている思いを伺いました。
勝ち負けの先にある学びや、これからのベイブレードの可能性についての考えです。
A8
最強のベイブレードを作って試合に勝つことを目指す、そこにはスポーツの良さが凝縮されておりとても貴重な経験が得られると思います。
その一方で、最強のベイが作れなくても、試合に勝てなくても、ベイの強弱はどのように決まっているのか考察することは誰にでもできることで、そこには科学の良さが凝縮されています。勝利は一時的なものかもしれませんが、科学的な理解は必ず一生役に立ちます。
もう少し現金に言えば、ベイブレードを回して成績アップできるかもしれません。
でもそうするには、ベイブレードに学びの要素があることに気が付いてもらう必要があります。
そんな思いを込めて「勝利より 大事なものを 見せてやる」というセリフが出てきました。ベイブレードXは「もう遊びじゃない、スポーツだ」といわれていますが、次の世代のベイブレードは「遊びながら、科学しよう」とかだったら少しうれしいですね。
編集後記:山崎先生へ感謝/解説記事はこちら
今回のインタビューを通して強く感じたのは、山崎先生がただ「物理を説明する人」ではなく、遊びの中にある学びの芽を、本気で子どもたちへ届けようとしている人だということでした。
科学者を志した原体験から、独楽に惹かれ続ける理由、そしてベイブレードに託した未来まで、ここまで率直に、熱量高くお答えいただけたことに、心から感謝申し上げます。
あわせて別記事では、今回の回答をもとに、山崎先生の原体験/独楽へのまなざし/ベイブレードを科学する意味を整理した解説記事を掲載予定です。
本記事を読んで「もっと背景を整理して読みたい」と感じた方は、そちらもあわせてご覧ください。
感想や「ここが刺さった」など、無理のない範囲でXやInstagramでコメントいただけると嬉しいです。
【応援したい方へ】山崎先生の挑戦もぜひご覧ください
今回のインタビューを読んで、「この先生の次の挑戦も応援したい」と感じた方へ。
山崎先生は現在、academistでクラウドファンディングに挑戦されています。
『ベイブレードの科学』や講演会・勉強会の実現に向けた取り組みですので、気になる方はぜひプロジェクトページもチェックしてみてください。
クラウドファンディングの期間は、3月末までです。



